八丈小島の陸産貝類 [生き物]

 4月下旬、八丈島の八重根港を出航した小型船は快調に八丈小島を目指していた。空は小雨模様だが海は穏やかで大きなうねりもなく快適だった。八丈小島は八丈島の西に位置する無人島で、渡船を利用しないと上陸できない。船の針路に見えてきた島影は三角形に近いドーム型をしており、海岸から山頂まで急勾配な地形であることが見て取れた。
八丈小島へ向かうs.jpg

 渡船の乗客はライフジャケットを着用し完全装備の磯釣り師の数人と使い込んだレインウエアーに長靴や運動靴のわれわれ陸貝屋が6人。
 同行者は某水族館勤務のM氏、某国立大学の準教授のU氏とその研究室の新入生M君、某自然史博物館の学芸員のN氏、一緒に海外採集に行くO氏、これだけの最強メンバーが揃えば成果も期待できるだろう。
 今回の目的は八丈小島に生息する陸産貝類の採集で、特に近年生息記録のないハチジョウキセルガイモドキの確認である。
 八丈小島は1969年に無人島になっており、その後、放逐されたヤギが増え食害による環境破壊が懸念されていたが、数年前からヤギの捕獲がはじまり現在では生息していない。
以前にも数人の陸貝屋が島に渡っており、そのころはヤギ道が縦横無尽にあったため島内の踏査は比較的に容易だったらしい。
 八丈小島にだいぶ近づいたところで船は島の周囲に点在する岩場を廻りながら釣り客を次々に降ろしていく、あとは最後に残った我々を島の北部の集落だった鳥打の海岸で降ろすだけだ。
 船を寄せる桟橋は無く、船着き場らしいと思えるのは船の引き上げに使っただろうコンクリートのスロープが陸上から海中へ続いているところだけだった。上陸方法は寄せ波のタイミングに合わせて船の舳先を岩場に押しつけている間に飛び移る。ここが一番危険な場面でタイミングが狂うと海に落水するか船と岩に挟まれる。
 船長が上陸したら左側の岩に沿ってあがるように指示していたが、聞こえなかったのか失念したのか、一人がスロープを四つん這いになってスローモーションのようにゆっくりと海へ向かって滑っていく、表面に付着した海苔で踏ん張りが効かないようだった。どうにか近く手を伸ばしてもらい岩の方へ引っ張ってもらい事なきを得たが、船のスピーカーから船長の「だから注意しただろう!」と怒声が響いた。
 上陸地点から山腹の集落跡までは道が残っており順調に進むことができた。無人になってから43年も経過しているため家屋の木造部分は残っておらず、森に呑まれたように木々が茂っている。ただ所々崩れた石積みによって集落跡であることがわかる。
八丈小島上陸s.jpg

 歩きながら常緑樹の樹皮を見ていくと小さなキセルガイが付着しているのが見えた。これはヒロクチコギセルだった。南西諸島から本州にかけて広く分布しているが生息地は局所的で海流によって分布拡大した陸貝である。非常に個体密度が高くここでは優先種のようだ。個人的にはこれよりひとまわり小さいナカダチコギセルを見つけたいのだが、なかなか見つからない。
ヒロクチコギセルs.jpg
 ヒロクチコギセル

 この日の樹林内は湿度が高く、絶好の条件に思えたがハチジョウキセルガイモドキは見つからない。しかし陸貝は非常に活発に活動しておりツバキカドマイマイ、パツラマイマイ、ハチジョウヤマボタルなどが徘徊しているのが見られた。
ツバキカドマイマイs.jpg
 ツバキカドマイマイ

 朝から降り続く小雨は4月下旬の気候では肌寒く感じ、完全にモチベーションが下がったのか、もう戻って温泉へ行こうという意見が出始めた。
 樹林から出て戻りながら小学校跡地といった開けた環境に移動すると、石の下や草むらからハチジョウノミギセル、トライオンギセル、オナジマイマイモドキなどや、石垣に生えたスゲの根ぎわでは微小種のハチジョウキバサナギガイも見つけられた。
小学校跡s.jpg

 調査を終えて島を離れる頃には空は晴れ渡り、船の後方を振り返ると海から突きだした八丈小島が雄々しく見えた。
 今回の調査でもハチジョウキセルガイモドキは幻の貝だったが、八丈小島にはまだ自然が保たれていることが分かり、そして多くの固有種が確認でき大変満足できた結果であった。
 ただ残念なことに隣接する八丈島では固有種の姿は非常に少なく国内移入種が至るところにみられた。本来分布していなかったミスジマイマイが市街地の神社周辺でみられ、一見して自然度の高そうな山地の樹林においても、なぜか鹿児島県宇治群島のウジグントウギセルが生息している。また、山間部には宮崎県の県の木で有名なヤシ科のフェニックスの圃場が所々にあるが、そこで落ち葉をめくってみると葉裏に奄美諸島のオオシママイマイ、沖縄諸島のシュリマイマイ、本州のヒダリマキマイマイが付着している。日本各地の選抜メンバーが集結している状況だ。
ウジグントウギセルs.jpg
 ウジグントウギセル

 山麓は遠目に見て樹林環境は良く残っているように思える。実際に林内を散策しても苔むした大木があり、谷部の空中湿度は高く感じられ、森全体には多種多様な植物が繁茂している。しかし、そこはすでに陸産貝類の固有種の姿はなく外来種の天国となっていた。八丈小島がこのようにならないことを祈らずにはいられない。


緑生研究所の詳細はコチラ
http://www.ryokusei-ri.co.jp/
緑生研究所は、日本経団連の生物多様性民間参画パートナーシップに参加しています。

担当:中原

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